Enharmonic☆Lied
☆ショートストーリー「この子の名前」(@本編から約19年前)
◎藤堂家・リビング
めぐみ「ねぇ、春ちゃん。この子の名前……もう決まった?」
春幸「ほーら、パパでちゅよ〜。かわいいでちゅね〜」
めぐみ「こら!娘が可愛いのは分かるけど、ちゃんと話を聞けよ!」
春幸「そんなこと言ってもさ〜。この子、本当に可愛いんだよ〜。ほら、ここのアゴの輪郭なんて君にそっくりだろ?」
めぐみ「あっ、本当〜!この辺りはうちの家系の特徴を継いだのねぇ〜……って、そろそろ期日が迫ってるんだから、早く名前決めないと!」
春幸「そ、そっか……。そうだね!この子はこれから一生、その名前で呼ばれるんだもんね」
めぐみ「そうさ。だから、世界で一番良い名前を付けてあげてね」
春幸「だけど、それだけ重みのあることだと思うと余計にプレッシャーだよぉ……」
春幸「いい案はたくさん浮かんでるんだけど……決め手がなくてね」
めぐみ「相変わらず優柔不断なんだから。……あなた、小説家でしょ?いつも登場人物の名前をサラっと決めてるんでしょ?その感覚でできないの?」
春幸「そ、そうは言ってもね〜。これは特別なことだし……」
春幸「それにぼくの書く小説は実在の人物をモデルにすることが多いから……」
めぐみ「はぁ〜……そういえばそうだったわね」
めぐみ「『洗車男』のヒロインの恵子……あれのモデルって私でしょ?」
春幸「え?あれは確かに始めて出会った頃の君がモデルだけど、どうして分かっちゃったのかな〜?」
めぐみ「あのねぇ……、今や親戚中で知らない人はいないよ?……『めぐみ』を漢字に直して『子』を足しただけの『恵子』なんて、誰でも見抜けるっての!」
春幸「いやぁ、さすがの名推理だね〜」
めぐみ「春ちゃん、あなたパパになったんだからね。もうちょっとしっかりしてよ」
春幸「はは……、そうだね」
めぐみ「それで、この子の名前だけど……」
春幸「う〜ん……。あと17時間くらい考えさせてよ。そしたら、もっと良いのが浮かぶかもしれないから」
めぐみ「あぁ〜、もう!そんなことしてたら、期日に間に合わなくなるってば!!」
春幸「ははは……困ったねぇ」
めぐみ「こっちはあなたにも困ってんだよ!まったく……」
春幸「そうだ!それじゃあ、君が決めてよ。君なら、何か良いアディアあるんじゃない?」
めぐみ「はぁ〜……。自分の子供の名前一つ決められないとかどんだけなのさ……」
めぐみ「こんな時くらい夫に花を持たせようっていう妻の気持ち……少しは理解してほしいものだよ」
春幸「いや〜、面目ない限りだよ。……でも、君が決めた名前なら、どんな名前でもきっと良い子に育つと思うからさ」
めぐみ「……まったく、本当に春ちゃんって調子が良いんだから」
春幸「…………」
めぐみ「そうねぇ〜……」
めぐみ「じゃあ、『きずな』なんてどう?」
春幸「『藤堂きずな』か。確か君の口癖だったよね、『人と人との絆は……』」
めぐみ「人と人との絆の力はどんな不可能も可能にできる」
春幸「そう、その言葉。君、それが大好きだよね」
めぐみ「当ったり前よ。私はその絆の力で、どんな困難も乗り越えてきたんだから!」
めぐみ「学校も、仕事も、そして結婚も……私に新しい絆を与えてくれた」
めぐみ「そして、私はこの子と逢えた……。だから、この子にはその絆を繋いでいって欲しいんだよ」
春幸「そっか。なんか君らしいね。感心したよ」
めぐみ「でしょ〜?惚れ直した?」
春幸「少しね」
春幸「だけど、『きずな』だとちょっと男の子っぽくないかな?それに名前の中に『傷』が入ってるのは、ちょっと語呂が悪いかも」
めぐみ「…………」
めぐみ「春ちゃんって意外と細かいところを気にするよね。っつーか、持ち上げといて落とすって……」
春幸「全然細かいことじゃないよ。これはこの子が一生呼ばれ続ける大切な名前だからね」
めぐみ「まぁ、それもそうね。じゃあ、どうすればいい?」
春幸「ん……待てよ……?」
春幸「絆は鎖……じゃなくて人との繋がり……人との縁……」
春幸「縁……えん?……そうか!」
めぐみ「どうしたの?」
春幸「『ゆかり』なんてどうかな?……ほら、人と人の『縁』と書いてゆかりと読むだろ?」
めぐみ「『ゆかり』?良いじゃない!!……春ちゃん、さすが小説家ね!見直したよ!」
春幸「いやぁ〜、はははは……」
めぐみ「ゆかり……。今日からあなたは『藤堂ゆかり』だよ、ゆかり……」
ゆかり「〜〜〜〜☆」
めぐみ「あら、気に入ったみたいだよ。この子、私の言葉が分かるのかしらね」
春幸「そりゃ、君の娘だからね。君に似て、将来はしっかりした良い子になるよ」
めぐみ「そう?……けど、あなたの子でもあるんだから、少し天然も入るかもよ?」
春幸「え?そりゃ、参ったなぁ……」
めぐみ「うふふ……」
めぐみ「元気に育ってね、ゆかり……」
めぐみ「そして、いつまでも人と人との縁を大事にして、絆の力を繋いでいってね……」
ゆかり「ぁぅぁ〜♪」
めぐみ「ふふ……可愛い♪」
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・・・Fin